私たちはもしかしたら、何も学びとらなくてもいいのかもしれない。《川代ノート》
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私たちはもしかしたら、何も学びとらなくてもいいのかもしれない。
先日の午後のことでした。福岡天狼院のソファに座り、いつものようにキーボードを打っているとき、私は突然そう思いました。どうして自分がそんなことを思ったのか、不思議でした。なぜなら私は今までに、「何も学ばなくてもいい」と思いながら生きてきたことがなかったからです。私は常に「どんなに小さなことにでも意味はある。私たちは努力さえすれば必ず何かを学べるし、学ぼうとするべきだ」と思い続けてきました。でも突然そうじゃないかもしれないと思い始めたんです。本当に突然。何かのお告げみたいに、私の脳裏に、その言葉は降ってきました。「何も学びとらなくてもいい」。それがどういうことなのか、はじめのうち、私は理解できませんでした。
けれど私は、これは何か、自分の直感か何かが、これを教えてくれているのだろうと思いました。きっと自分の心の中に何か、変化があったのだろう、と。
なんの根拠もなかったけれど、本当にそう思ったんです。私は、理屈よりも直感を信じるタイプですし、そして、今まで自分の直感に従って、大きく道を踏み外してきた経験はありませんでした。だからきっとこの直感は正しいのだろうと思いました。
なので、考えてみようと思います。「何も学びとらない」ことについて。「気づき」も「学び」もない人生について。もしかしたら、そういうことについて考えようとすること自体、私が何かを学ぼうとしていることになってしまうのかもしれないけれど。もしかしたら……これを考えることによって、今までの私の人生が全部ひっくり返るような、衝撃を受けることになるかもしれないけれど。
推測ですが、そう思うようになったのは、おそらく私が劇団をやるようになったからだと思います。
なぜなら、その「お告げ」的直感が降りてきたのは、「劇団天狼院〜咲〜」の旗揚げ公演が終わった直後のことだったからです。
はじめに言っておきますが、私は演劇ど素人です。演劇について何も学んだことがありませんし、まして興味を持ったことすらありません。最後に演劇をやったのは幼稚園児のときです。幼稚園の学芸会でたまたま、「不思議の国のアリス」の主役に選ばれたことを、未だにずっと自慢し続けているような人間です。だいいち、私は全部顔に出てしまうタイプで、演技をしたり、とりつくろったりするのがとても苦手なのです。
よく言えば、正直。悪く言えば、不器用。
そういう人間。
だから、演劇なんて微塵も興味はなかったし、今後やる予定もありませんでした。全く。
でも、その日は突然訪れた。なんの前触れもなく。
それは、裏フォト部という深夜開催の女性限定のイベントでの出来事でした。
「じゃ、谷口さん、さき、よろしくね!」
いつものように突拍子もなく言ったのは、三浦さんでした。天狼院書店店主。劇団天狼院主宰。小説家。ライター。起業家。編集者。信じられないほど多くのプロとしての肩書きを持っている、ちょっと変な人、それが三浦さんです。路頭に迷っていた私の未来を切り開くきっかけを与えてくれた、いわば恩人でもあり、そして、現在の私の上司でもあります。
その三浦さんが変なことを言うのはまあ、いつものことなのですが、まさか「劇団をやれ」と言われるとは。深夜4時近く、ぼんやりした頭が理解するには、ちょっと刺激が強すぎる内容でした。
は?
そして私の隣には、同じように思考が追いつかず、ぼーっとしている人がいました。谷口さんでした。
目がまん丸になって、硬直していた谷口さんの顔が、今でも忘れられません。でも今思えば、あのとき、あの空間に、谷口さんと私が一緒にいたからこそ、この機会を得ることができたのだと思います。深夜営業で眠くて眠くて仕方ないなか、みんなが次々に脱落してソファやこたつに倒れていくなか、がんばって起きていてよかったなとつくづく思います。
谷口さんは、小説を書いている人でした。天狼院小説家養成ゼミ。小説家を目指す人々が集まるゼミです。たくさんの人が、自分のやりたいことや、表現したいことを実現するために、天狼院に集まっていますが、なかでも、小説家養成ゼミは、強い夢を持つ人たちの集まりでした。小説を書きたい、という強い思いを持っている人たちが集まって、切磋琢磨しあう。きっと誰しも、ある程度想像はつくと思いますが、小説家養成ゼミは、いい意味で、ピリピリしていました。誰もが、お互いの才能や、ポテンシャルを認め合いながらも、それでも、やっぱり自分が一番になりたい、自分こそが夢を叶える存在でありたいと、そういう純粋な、キラキラした野心をぶつけ合う、ちょっと異質な空間なのです。
ですが、そんななかで、谷口さんは、とてもマイペースにゼミを受けているように見えました。落ち着いていて、優しくて、大人で。いつも他人と自分を比べてばかりで、焦ってばかりいる私とは大違い。
穏やかで落ち着いているから、一見ゆっくり動いているような印象を受けるのに、実は、すごく早い。マイペースなのに、確実に前に進んでいる。そんな谷口さんに、私はひそかに興味を持っていました。とても強く。谷口さんってどんな人なんだろう。なんであんなにマイペースに書き続けられるんだろう。どうして私みたいに……不安になったり、焦ったり、しないんだろう。
おそらく私がそんな風に谷口さんのことを見ていたことなんて、本人は全く気がついていないだろうと思います。いや、もしかしたら誰も気がついていないかもしれない。この気持ちは今、ここで初めて吐露したのですから。
吐露するついでに思い切って言ってしまいますが、私は谷口さんの小説をはじめて読んだ時、「やばい」と思いました。ああ、なんで、と思いました。
なんで、この人、天狼院に来ちゃったんだろう。
もともと天狼院に小説家養成ゼミがなかったときには、天狼院で小説を書いているのはスタッフだけでした。だから、デビューに一番近いのは、私だった。
でも、彼女が現れたことによって、私のゆるぎない地位は、一気に崩れ始めた。
なんて、繊細な言葉を紡ぐ人なんだろう、と思いました。正直。
言葉のひとつひとつが、繊細で、丁寧で、それは谷口さんという女性の人柄そのものを表しているように思えました。
私は自分のことが嫌いになりそうでした。なんで、なんでこの人が出てくる前に、私、小説もっと書いておかなかったんだろう。なんでもっとがんばっておかなかったんだろう。後悔ばかりが出てきて。だって、彼女の小説を読んでしまったあと、何度もなんども、その小説の言葉が頭に浮かんでくるからです。
谷口さん独特の、もろいような、はかないような、そんな言葉の使い方を、私も真似したいと思いました。あれを私が書ければいいのにと思いました。いっそ、あれは自分の作品だと言ってしまいたいとすら思いました。
そう思っていた矢先に、言われたんです。三浦さんに。あのギラギラした野心に燃える目を向けられながら、こう言われました。
谷口さんの小説、「青空どろぼう」を舞台にしよう、と。
もちろん社長命令ですから、断れるわけがありません。
私はぞっとしました。
ど素人なのに、お客様からお金をもらって、劇団の運営から演出、女優をやらなければならない、ということにではありません。
自分がこの劇団の演出を手がけることによって、内心で勝手にライバルだと思っていたその相手のデビューを手助けすることになるという、いかにも皮肉なこの展開に、です。
もちろん忙しい中で劇団の運営やセリフを覚えること、それ自体も恐ろしいと思いました。でもそんなことは実際には、形骸的な問題にすぎませんでした。
本当にきつかったのはそんなことではありません。私が自分自身の手で自分の首を占めているような、その感覚にぞっとしたのです。
でもやるしかないんだ、と思いました。「人間、追い詰められたら一皮むけるよ」と三浦さんはニヤリと笑って言いました。どうやらこの経験を通して、私に新しい何かを学びとらせようとしているようでした。怖くても、社長命令を断るわけにはいかない。事実、やるしかありませんでした。
そして谷口さんも、目を丸くしながらも、「はい」と頷きました。
こうして、「青空どろぼう」は、幕を開けたのです。
私は演出・主演に、谷口さんは脚本に。
目指すものは、「リアル」。
リアルな演劇。目の前で起こっていることを、そのまま目にしているような、リアルさ。
なぜなら、私と谷口さん、二人とも、劇団に関わった経験がなかったからです。でも三浦さんは、それこそが強みになる、と言いました。
「劇団経験はないけれど、二人とも文章が書ける。本を読む読解力がある。劇団をやるにはそれだけで十分だ」と、三浦さんは言いました。
演劇経験はない。でもそれがむしろ強みになる。演劇くさくない、リアルな演劇を作る事ができる。
そういう三浦さんの、ある意味命題のようなものを、私と谷口さん二人で、証明しなければならなくなったというわけです。もちろんそんなハードルの高いことできるんだろうか、と思いましたが、私はもう流れに乗ってやってみるしかありませんでした。何を言われても、始まってしまったのです。やるしかないのです。もうFacebookでもホームページでも大々的に告知してしまったのです。そこまでやってしまったら、もうやるしかありません。嫌だとか無理だとか言っている暇はありません。
何しろ、時間がありませんでした。劇団をやることが決まり、実際に動き始めてから本番まで、1ヶ月もありませんでした。
「やばいですよね」
「やばい……ですね」
「本当に間に合うんですかね」
「わからないです」
「本当に2000円とるんですか?」
「……はい。とります」
何度、谷口さんと「やばい」という言葉を交わしたでしょうか。
思い出せないくらいです。今となっては、ずっと遠い記憶になってしまいました。
ほんのちょっと前のはずなのに、今思い返すと、ぼんやりしていて、もやがかかっているように、よく思い出せないのです。でも、とにかく緊張と焦りの中で、毎回の稽古のたびに谷口さんと「やばい」と言っていたことは、よく覚えています。
何しろ、私たちは演劇をどういう順番で作っていくのかも、稽古をどう進めていくのかも、ルールも何もわからないので、手探りで進めるしかなかったのです。「本当にこれでいいのかな、このままで合ってるのかな」と常に不安に思い、疑問を抱きながら稽古をしていました。
ただ、やばい中でも、「やばいやばい」と口にしている中でも、私はどこか落ち着いていました。
「きっと大丈夫」と、なぜか楽観視していました。台詞も覚えきれていない、場面転換をどうするかも決めていない、まだ脚本が確定していないという状況で、どうしてあそこまで落ち着いていられたんだろうと思いますが、たぶん、周りに頼りになる人がいたからだと思います。
たとえば、この「青空どろぼう」でみんなを引っ張っていく重要な役どころを担う、田中望美。のんちゃん、とみんなからは呼ばれていました。
彼女は大学生でしたが、妙に落ち着いている不思議な子でした。目に力があって、存在感があって。そして、驚くほど、まっすぐな子。きっと将来大きく羽ばたいていくんだろうと思わざるをえない、強い魂を持っていました。
集客に大きな影響を与えてくれたのは、動画班の迫さんでした。驚くほどクオリティの高いCMを作ってくれたおかげで、「青空どろぼう」は多くの人に広まりました。千秋楽公演を、もともとの席数をさらに増席した超満員で終えられたことは、迫さんの「青空どろぼう」への情熱がつまったすばらしい動画なしには、成し遂げられなかったと思います。
舞台監督を担った西山さんは、私と同じ歳の、演劇のことばかり考えている男の子でした。頭がおかしくなるくらい、頭が痛くなるくらい、演劇のことを考えている。今だから言えるのですが、私ははじめて彼に会ったとき、どうしてそこまで演劇に夢中になれるのか、不思議でしかたありませんでした。彼自身普段は役者をやっていて、自分の劇団の稽古もあるのに、ほぼ毎回天狼院の稽古にも参加してくれました。なんでそこまでするの、と聞いたら、「そこに演劇があるからだ」と冗談交じりに彼は言いました。
永井里枝さんという、天狼院に入った新しいスタッフもまた、常識人的な見た目に反して、なかなかぶっ飛んだ(もちろん、いい意味で)思考を持っている人でした。彼女は今回の演劇の音響からテーマソングまで、「音」関連のことを全て担ってくれました。みんなを支える大な器を持った彼女は、私が今までに出会ったことのないようなタイプでした。彼女の歌は、人の心の琴線に触れるような繊細な言葉で紡がれていました。尖った部分と丸い部分を、心の中にうまく同居させている人でした。
彼らだけではありません。参加してくれた役者の人たちも、私がてんてこ舞いの中福岡天狼院をどっしりと支えた海鈴や、東京から運営の応援をしてくれたまむさんをはじめとした天狼院のスタッフも、劇団天狼院〜FUKUOKA〜で演出をしていて、たくさんのアドバイスをくれた中村雪絵先生も。周りにいる誰もが、私を支えてくれたから……。
だから、私は頑張れたんです。素人だったのに、なんとかやって来れたのは、みんながいてくれたから。
ありがとう。本当に、ありがとう。
……などという、綺麗な言葉で締めくくればよかったのですが、まあ、そうもいきません。もちろん私も、そういったたくさんの人たちに囲まれて暮らすなかで、幸せだと思いました。感謝もありました。ですが、そんな綺麗な気持ちだけで生きられるほど、感情は簡単には支配できません。
私は、支えてくれる才能あふれる人たちが周りに増えれば増えるほど、稽古を進めるなかで、悩み、苦しむことになりました。
周りにいる人が次々に才能を開花させればさせるほど、ものすごいスピードで前に進んでいけばいくほど、私は苦しみました。嫌になりました。逃げたくなりました。
自分だけが、立ち止まっているような気がしました。
私以外のみんな、生き生きと、進んでいるのに。
私だけ、何にもできてない。
どこか空回りしているような感覚がありました。
本当に大丈夫だろうか。このままでいいのだろうか。私は、みんなの役に、立てているのだろうか。
それがわからなくて、前に進んでいるのか後ろに下がっているのか、もっとアクセルを踏んだほうがいいのか、一旦ブレーキをかけたほうがいいのか。わからないということがただ、不安でした。
いよいよまずいということが実感としてわかりはじめたのは、本番一週間前のことでした。
私は、スマホの画面に映った女の喋り方に呆然としました。
周りの役者たち、場面転換のスムーズさ、演出。それなりに完成に近づいているような気がするのに、何かが足りない。決定的な何かが足りないから、作品として見れるものじゃなくなっている。
稽古をしている間、ずっとそういう感覚がぼんやりとあったのですが、その理由が、一週間前になってようやくわかったのです。
私が、リアルじゃない。
主役で、一番台詞量の多い私が一番、リアルじゃありませんでした。
液晶画面に映っている女は、「青空どろぼう」の主人公なんかではなく、あくまで「川代紗生」という人間が、紙に刷られた言葉をなぞって読んでいるだけのように聞こえました。棒読みとか、そういうのではないのですが、ただ、なんというか。
手抜き感。
「これでいいでしょ」感。
適当に「これでいいや」と納得させたものをそのまま舞台の上に起こしたみたいな、そんな感じ。
それを見ていて、私は本当に硬直しました。
なんで、今まで気がつかなかったんだろう。
「リアル」は、簡単には作れないんだ。
それが、本番一週間前になってようやく私が気がついた事実でした。
私は、「リアル」な演劇を作ろうとしていたから、演劇くさくなく、私が普段しゃべっているのと同じようなニュアンスをそのまま舞台の上に持っていけばいいのだと思い込んでいました。
それこそが面白いリアルなんじゃないか、と。
たしかに、私が舞台の上でやっていることは、リアルでした。普通に日常的に話しているような喋り方でした。
でも、それは、面白くありませんでした。
当たり前です。ただの何の肩書きもない人間がただいつも通りしゃべっていることの、何が面白いのでしょうか。
面白い「リアル」を作るのは本当に難しいのだとやっとわかったんです。私にはお客さんに見てもらえるだけのものにするための努力が足りていませんでした。圧倒的に。
それは言ってしまえば、化粧の仕方を間違えた時のような感覚でした。きちんと丁寧に作りこんで、見られる顔に仕上げなければならないところを、勘違いしてすっぴんで出かけて行ってしまったような。
どうすれば、と思いましたが、もうやるしかありませんでした。
とにかく、出来うる限りのことをやりました。何が効果的に見えるかはわかりませんでしたが、思いつくことは全部やってみました。舞台経験の長い西山さんに相談したり、のんちゃんに稽古に付き合ってもらったり、色々な人に相談しました。みんなに迷惑をかけられない、なんて高尚な理由からがんばったわけじゃありません。恥をかきたくなかったんです。才能あふれる人間が集まっている集団の中で、一番目立っている私だけが最悪だなんて思われたらどうしよう、というバカみたいな不安から頑張っただけです。公演のあと、お客さんが「面白かったけどさ、なんであの人が主役やったんだろうね?」なんて言っているところを想像すると恐怖で全身が震えました。そんなことは絶対あってはならない。なんとかしなきゃならない。
そうして必死になってやってやってやってやってやってやってやって、とにかくやりました。途中、熱を出したり鼻血を出したりしました。でもとにかくやりました。
やりました。
やりきりました。
不安そうだった谷口さんの顔は、徐々に、本当に徐々にではありますが、期待をはらむようになりました。
そして、「青空どろぼう」は、終わりました。
だから、なんだ、と聞かれれば、何も答えられません。
「青空どろぼう」は終わりました。それだけです。千秋楽公演は福岡天狼院がパンパンになるくらい、人がたくさんいました。動画班の迫さんが豪華なカメラ4台を使って撮影をしてくれていました。
でもそれだけやったものなのに、終わるのは、一瞬でした。本当に一瞬でした。
おそらく今までの人生で忙しいランキング3位以内には食い込むであろう怒涛の一ヶ月だったのに、終わってしまうのは、ほんの一時間ちょっとのことでした。
ああ、終わった。
私は、演劇があったとは考えられないくらい、すっかりいつも通りの姿に戻った福岡天狼院を見て、そう思いました。
涙も出ませんでした。
私はかなり涙もろいタイプなので、きっと終わったら感極まって泣くだろうと思いました。むしろみっともないくらい泣いて恥ずかしい思いをしないかどうか心配なくらいでした。
でも涙は一滴もでないどころか、そのような気配すらありませんでした。なんでだろう、と思いました。あんなにがんばったんだから泣いてもいいと思いました。
たくさんの才能に囲まれながら過ごす一ヶ月は、なかなかつらいものでした。でも私は最終的にはもう、「やった」ということしか覚えていません。最後の方の記憶はほぼありません。ただ「やった」ということしか、本当に覚えていないのです。始めの頃の焦りや葛藤や、谷口さんに対する一方通行のライバル意識や、のんちゃんの純粋なきらめきへの嫉妬や、西山さんのひたむきさを見て焦る感じとか、愛情深く気配りのできる迫さんや永井さんへの憧れとか、始めの頃嫌という程感じていた気持ちは、もう一切気にしていなかったように思います。気にしていなかったというか、感じ取る暇もなかったというか、そういう感じでした。最後の一週間であったのは、疾走感。それだけを強く覚えています。
ああ、もしかしたら、私たちは、何も学びとらなくてもいいのかもしれない。
あのときの疾走感をぼんやり思い出していると、ふと、そう思いました。
だから何、と言われてもいいのかもしれない。
だから何って、別になんもねえよ、で終わることがあってもいいのかもしれないと。
私たち人間は、子供の頃から常に何かを学び取ろうとして生きていて、そして人に説明出来るちゃんとした答えや、証拠や、結果がないと、行動してはいけないような気分になることがあるけれど。私自身、いつもどんなときでも、必ず証明できる何かを手に入れながらレベルアップしていかなければならないと思い込んでいたけれど、でも、別に必ずしもそうじゃなくてもいいのかもしれないと、そう思ったんです。
「青空どろぼう」をやってどうだった、とか、何があった、とか、何を学んだか、とか。
正直言って、私はまだきちんと説明出来る自信がありません。ただ、「やったんです。やりきったんです」としか、今は言えないような気がします。
もしかしたら、もう少し経ってみれば、「あれはああいうことを学ぶためにあった」とか、「あれが大事だったんだ」とか、「あれがあったから今がある」とか、言えるようになるのかもしれない。
でも私は、今の段階では、とにかく「青空どろぼう」をやりきるために頑張ったんだという実感と、たくさんの課題は残っているにせよ、とりあえず無事に終えられたという安心感しかありません。
けれど、それでいいのだと思います。
そういう頑張り方があってもいいのだと思う。何も学びとらなくても、今あるこの充足感を大事にできるなら、このなんとも言えない、うまく説明できないじんわりとした幸せな感情が今この胸のなかにあるのなら、それでいいんだ、と思うのです。
「人間、追い詰められたら一皮むけるよ」と三浦さんは言いました。
さて、果たして私は、この「青空どろぼう」を通して、一皮むけたのでしょうか。
何か、変わったのでしょうか。
新しい何かを学びとることが、できたのでしょうか。
それはまだわかりません。
何かが変わるかもしれないし、何も変わらないかもしれない。
でも、それでいいのだと私は言いたい。
何も明確な答えを用意できなくてもいいのだと。何も説明できなくてもいいのだと。
「学び」も「気づき」もない瞬間があっても間違っていないんだ、私たちは生きていけるんだと、そう言いたいです。
「もー、本当に、お疲れ様でした!!! 本っ当に、ありがとうございました!!!」
今の私には、あの劇団を終えて疲れ切った体で、無我夢中で、気がついたら勝手に谷口さんに抱きついていたときの、あのなんとも言えない興奮と、ありとあらゆる人への、感謝と。
それから、これまでの人生で一度も味わったことのないような、幸せな疲労感があったという記憶だけで、なんだかもう、十分なのかもしれないから。
***
「劇団天狼院〜咲〜」2016秋公演「青空どろぼう」の映像発売が決定しました!
12月頭に発売開始予定です。お楽しみに!
11月26日公演「劇団天狼院〜FUKUOKA〜」は、プロの役者である中村雪絵先生が、スタッフ川代の記事を脚本に舞台化したものです。残席残り4枚となっております。お早めに!
【11/19(土)・26(土)福岡限定】劇団天狼院〜FUKUOKA〜2016秋公演〜『親にまったく反抗したことのない私が、22歳で反抗期になって学んだこと』《書店が「劇場」に!? Web記事を演劇化!「読む」から「体験する」へ!》
この記事は、「ライティング・ゼミ」で「読まれる文章のメソッドABCユニット」を学んだスタッフが書いたものです。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
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